鹿児島地方裁判所川内支部 昭和59年(ワ)129号 判決 1987年1月22日
主文
被告の昭和五八年六月九日開催の通常組合員総会における宇宿敏行、新橋政道、小村優、岡本伍市をそれぞれ理事に、富永時寛、小松教人を監事に選任する旨の決議、及び同じく同六〇年七月三〇日開催の通常組合員総会における宇宿敏行、小村優、岡本伍市、新橋政道をそれぞれ理事に、角田裕司、東弘毅をそれぞれ監事に選任する旨の決議、はいずれも存在しないことを確認する。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実
第一 申立
一 (請求の趣旨)
主文同旨
二 (本案前の抗弁)
原告の訴を却下する。
(請求の趣旨に対する答弁)
原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。
第二 主張
一 (請求の原因)
1 被告は昭和四〇年六月一六日中小企業等協同組合法に従い設立された法人で、原告は同組合の組合員である。
2 被告は、(一)昭和五八年六月九日通常組合員総会を開催し、宇宿敏行、新橋政道、小村優、岡本伍市をそれぞれ理事に、富永時寛、小松教人を監事に各選任する旨の決議が行われたとして、登記申請をし、同五九年一〇月二六日その旨の登記がなされた。
又被告は、(二)同六〇年七月三〇日通常組合員総会を開催し、前記、宇宿、小村、岡本、新橋をそれぞれ理事に、角田裕司、東弘毅を監事に選任する旨の決議がなされたとして登記申請し、同六〇年九月一三日その旨の登記がなされた。
3 然しながら、右(一)、(二)共に右総会は存在せず、従って又右理事又は監事に選任する旨の決議は存在しない。
二 (本案前の抗弁)
被告は、原告からの組合費納入がないため、昭和六〇年二月二四日督促状を原告宛に発したが納入期限に右納入がなかった。
そこで、被告は、昭和六一年三月二日理事会、臨時総会を開き、同年三月一〇日付内容証明郵便で除名を通知すべき旨を決議し、右同書は同年三月一一日原告に到達した。
よって、原告は、原告としての当事者適格を欠くものである。
三 (請求原因に対する認否)
第1項中原告が被告の組合員であることを否認し、その余は認める。同第2項は否認し、同第3項は争う。
四 (被告の主張)
1 商業登記によると、松迫安男は昭和四八年六月九日、代表理事に就任、その後同五〇年六月九日任期満了に伴い重任し、同様同五二年同五四年、同五六年の各年六月九日にそれぞれ重任となっている。然しながら、右同人の代表理事の就任は、福寿十喜の指示で前記富永が総会を開かず、資格のない右松迫を代表理事に就任させたもので、右松迫の知らない間に同人が昭和四八年六月九日に遡って就任した如く、そうして二年毎に重任の決議がなされた如く仮装し、すべて同五六年九月二八日一括して不実の登記を経たものである。
2 一方被告の組合員らは、昭和五七年頃から組合運営新役員選任の件について、右松迫に組合員総会の招集を再三求めて来た。しかし同人はこれを無視し続けた。
3 そこで組合の総意を形成すべく、組合員による会合が昭和五七年頃から再三開催された。
当時理事であった前記富永より全組合員に事前連絡のうえ、議題を決めて適式に開催された臨時総会が同五七年一二月一九日開催分と同五八年一月三〇日開催分である。
なお右選任登記は、代表理事の任期は既に同五八年六月八日で満了しているため、登記手続の便宜上同年六月八日を定時総会としたまでである。
従って前記請求原因第2項(一)に関する被告の新代表理事その他の役員選任決議は有効である。
又右同請求原因(二)の総会については、前記宇宿は組合員の総意に基き適法有効に選任された代表理事であり、同人による総会招集も有効に存し、原告主張の各理事、監事を各選任した決議はいずれも有効である。
五 (本案前の抗弁に対する答弁)
被告の主張は要するに原告が無効として争っている総会決議に基き、原告の組合員たる資格の得喪を主張するもので論理矛盾であり主張自体失当である。
六 (被告の主張に対する原告の反論)
1 被告の組合定款によれば、通常組合員総会の招集権者は代表理事である。
2 然して、被告主張にかかる前記(一)の総会開催当時における代表理事は前記松迫であるところ、右総会なるものは右松迫の招集にかかるものではなく、又右同(二)の総会は代表理事前記宇宿によって招集されたとするが、同宇宿を理事に選任した右(一)の決議自体が、前述のとおり存在しないものというべきものである。
して見ると右(一)、(二)の総会はいずれも招集権限のないものによって招集されたもので、総会としては不成立であり、同総会による理事もしくは監事に選任する旨の決議は結局存在しないものというべきである。
第三 証拠(省略)
理由
一 (本案前の抗弁について)
被告の主張は要するに原告は昭和六一年三月一〇日限り被告組合を除名されたので、組合員たる資格を欠き、原告たる当事者適格を失った旨を理由とするものであるが、右主張は後述のとおり理由がなく、他に原告の当事者適格を左右すべき事実については、これを認めるに足る証拠はない。
二 (総会決議の存否について)
(一) 成立に争のない甲第一号証の一、三、甲第三号証の一ないし三、乙第二〇号証並に証人富永時寛の証言によると、昭和五八年六月九日、当時の被告の組合員である富永時寛、新橋政道、宇宿敏行、岡本伍市らが、右富永の招集で、ケイテン産業の事務所に集合し、被告の役員として、理事に右宇宿、新橋、岡本及び小村優を、監事に右富永及び小松教人を選出する旨の決議をなしたこと、同決議並に右同日の理事会の決議に基づき、同五九年一〇月二六日宇宿敏行を被告の代表理事とする変更登記をなしたこと、又同六〇年七月三〇日右宇宿の招集により市民会館において、前記富永、宇宿、小村、岡本、新橋、及び角田裕司、東弘毅ら以上七名により被告の役員として、理事に右宇宿、小村、岡本、新橋を、監事に右角田、東を選出する旨の決議をなし、同年九月一三日、右新橋を代表理事に変更した旨の登記申請をなしたことが認められる。
(二) 一方、被告は中小企業等協同組合法に基づき設立された事業協同組合であることは、当事者間に争がないところ、右同法によると組合員総会は定款の定めるところにより招集すべき旨が定められ(中小企業等協同組合法四六条、四七条)ており、成立に争のない甲一号証の九によると、被告組合では、理事長の定めがあり理事長は組合を代表し、組合の業務の執行をする旨が定められていることが認められる。
そうして見ると組合員総会の開催については先ず理事会の招集決定により、代表理事たる理事長がこれを招集すべき権限を有することは明らかである(前同法五四条、商法二三一条)。
然るに、前記事実によれば、昭和五八年六月九日の総会は、富永時寛の招集にかかるものであるところ、当時右同人が代表理事であった事実については、これを認むるに足る証拠はない。
然して、招集権者でない者の招集にかかる総会は、全員集会の場合は格別、組合員総会として認められず、その決議もまた不存在と言わざるを得ないのである。
以上につき、被告は、(1)その頃登記上代表理事であった松迫安男は同人に対する総会開催に関しての前記富永らからの再三の求めに応ぜず、これを無視して来た旨や、(2)更に同五九年一〇月七日重ねて臨時組合員総会を開き先の決議を再確認した旨、或は(3)そもそも、右松迫の代表理事の資格自体が、全く総会も開かず、当時川内市の市長であった福寿十喜の指示で、不実のまま登記したもので、右松迫はその資格を有しない旨の主張をなすが、先ず右第(1)点については、右事由の存在自体は、直ちに右富永の招集権限を根拠づける理由とはならず(別に、かかる場合については、中小企業等協同組合法四七条、四八条において定めがあり、右同制度によらざる限り右富永の招集権を正当化する理由とはなし難い。)、第(2)点については無効な総会、従って又決議を幾度重ねても追認等の有効視する理由とはなし難く、第(3)点については、右松迫が適法に選出されたか否かは、右富永の召集権限の有無とは全く別個の事柄であり、従って右松迫に関する事由は、その存在自体によっては、直ちに右富永の招集権限を正当化する理由ともならない(招集権者不存在の場合については、前記同法四八条後段)というべきである。
他に右認定を覆すに足る証拠はない。
(三) 次に、昭和六〇年七月三〇日の総会については、前記事実によると、宇宿敏行が代表理事として招集したものであること、及び、同人が理事として選任されたのは、前記(二)で、説示の組合員総会に基くものであることが認められるが、一方右総会は前述のとおり不適法であって、その決議は不存在たること明らかであるので、右宇宿には結局代表理事たる資格、権限を有しないものというべきであるから、右昭和六〇年七月三〇日の総会決議も又不存在と言わざるを得ないのである。
三 (原告の除名決議について)
証人新橋政道の証言により真正に成立したものと認められる乙第三三号証、同第三四号証、同第三七号証、同第四一号証、同第四五号証の一、及び成立に争のない乙第三九号証の一、同第四〇号証、同第四四号証の一、並に証人新橋政道の証言、及び原告本人尋問の結果によると、被告は昭和六一年三月二日臨時総会で、原告に対し組合費未納を理由として除名処分の決議をし、同年三月一〇日、代表理事新橋政道名で、原告に対しその旨の通知をなしていることが認められる。
ところで、右代表理事である新橋政道は、前記甲第三号証の二、及び成立に争のない甲第三号証の八によると、前記二の(三)で説示の組合員総会で理事に選出され、次いで、その理事会で代表理事となったものであることが認められる。
して見ると、前述のとおり右総会決議が不存在たる以上、右新橋は被告の執行機関たる資格を有せず、且つは、同人の招集にかかる総会による除名決議も結局不存在たるを免れず、して見るとその余の点を判断するまでもなく、右除名処分なるものは結局無効不存在たるを免れず、従って、右処分により原告の被告組合の組合員たる資格にはなんら消長はないものというべきである。
第四 結語
以上の次第で、原告の請求は正当であるからこれを認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用し、主文のとおり判決する。